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【談話】介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案の早期成立と全ての福祉労働者を対象とした恒久的な人材確保施策を求める

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 4月15日、福祉保育労は、野党6党が介護・障害福祉労働者の月額1万円賃上げを目的に共同提出した法案の審議入りをうけて、「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案の早期成立と全ての福祉労働者を対象とした恒久的な人材確保施策を求める」談話を発表しました。  

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介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案の早期成立と 全ての福祉労働者を対象とした恒久的な人材確保施策を求める【談話】

2014年4月15日 

全国福祉保育労働組合 書記長  澤村 直

(1)4月1日、衆議院本会議で、民主・みんな・結い・共産・生活・社民の野党6党共同提出の「介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案」(以下、法案という)が審議入りした。この法案は、昨年の第183国会で同じく議員立法として提出された「介護従事者等の人材確保に関する特別措置法案」(以下、183国会提出法案という)を修正して障害福祉従事者も対象としたものである。183国会提出法案は、福祉人材の確保という国民にとって重要な法案であったにもかかわらず、政府・与党が十分な対応をせずに184・185国会でも継続審議とされた。

 今国会に提出された法案は、この間の政府の福祉人材確保施策では不十分であるとの福祉労働者・国民の要求を反映させて現状の改善を目的として野党が共同して提出したものであり、十分な審議と国民的な論議によって与野党一致のうえで成立させることが迫られている。福祉保育労は、劣悪な福祉労働者の処遇を改善し、深刻な人材確保問題の実効性を持った改善策として法案の早期成立を強く望むものである。

(2)介護保険導入以降、2回の報酬改定で単価が引き下げられたなかで介護の人材不足が顕在化したことを受けて、2007年には福祉人材確保指針が見直された。福祉保育労は、「対象者の命と生活を全面的に支援する福祉労働者には、その専門性に見合った処遇がなされるべきであり、人材確保には福祉労働者の大幅な処遇改善が必要である」として、福祉人材確保指針に沿った実効性のある施策を求めて運動してきた。

  政府は、2009年以降、介護処遇改善交付金や障害福祉での処遇改善助成金事業を実施して、介護・障害福祉労働者の賃金引き上げに一定の成果がみられた。特にこれは、報酬とは別に全額国庫負担で財源を確保し、賃金引き上げを条件として罰則を規定したことが効果を生んだためであるといえる。

  しかし一方で、直接処遇をおこなう介護・障害福祉労働者に対象を限定してケアマネージャーや事務職などが対象外とされたこと、定期昇給財源へ利用が可能であり賃金の底上げには結びつかなかったこと、予算の積算基礎となる配置基準が低く現場の実態と著しく乖離していることなどの課題もあり、抜本的な処遇改善には不十分であったといわざるをえない。さらに、2012年の報酬改定で交付金・助成金は廃止されて報酬加算となり、処遇改善が利用料引き上げにつながるという国民との矛盾を新たに生んで加算申請が抑制され、処遇改善の実効性が担保されない状況にある。

(3)法案の提案理由では、「介護・障害福祉従事者が重要な役割を担っている」が、「その賃金が他の業種に属する事業に従事する者と比較して低い水準にある」ので、「賃金の改善のための特別の措置を定め」て「優れた人材を確保し」、「支援の水準の向上に資する」として、介護・障害福祉労働者の専門性を認め、その処遇改善が福祉水準の向上に結びつくとの認識を示しており、この点は評価できるものである。

 さらに、賃金改善に要する費用について報酬単価等への加算とせず、「国は、介護・障害福祉従事者処遇改善助成金の支給に要する費用の全額に相当する金額を都道府県に交付する」として全額国庫負担による助成金制度としていることも、利用料負担の増加を伴わないしくみとして評価できる。

 一方で、法案では対象者を、「介護・障害福祉従事者とは、処遇改善加算の対象事業者で働き、政令で定めるサービスに従事している者」としているが、対象者概数として示されている約122.2 万人(介護96.4万人、障害福祉25.8万人)の範囲が明確にされていない。また、対象者概数が常勤換算方式によって非常勤職員を常勤換算した結果であるのかも不明である。直接処遇職員だけではなく、介護・障害福祉事業に従事している常勤・非常勤を問わずすべての労働者が対象となることが求められる。

 また、法案では「平均して1月当たり1人1万円賃金を上昇させることを想定」していて、処遇改善交付金(助成金)による15,000円の改善や2回(2009年と2012年)の介護報酬単価引き上げによる15,000円改善という厚生労働省の評価と合わせて、民主党が政権公約で掲げていた介護職員の賃金4万円引き上げに近づけようとしていると考えられる。しかし、現行の処遇改善加算による前年度からの賃金引き上げ額(基本給+手当+一時金を月平均して常勤換算によって算出し、前年度と比較した額)は、厚生労働省の「平成25年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、常勤7,180円(非常勤は2,470円減)、「平成25年度障害福祉サービス等従事者処遇状況等調査結果の概要」によると、常勤9,637円増(非常勤1,715円増)である。しかも、改善した施設・事業所の77%では定期昇給による引き上げであって、本来の目的である賃金水準全体の底上げにはつながっていないのが実態である。これでは、厚生労働省の賃金構造基本統計調査で全労働者平均より最大10万円も低いとされている福祉労働者の賃金改善に十分であるとはいえない。

 183国会提出法案では、「事業の種類及び地域ごとに、介護従事者等の賃金の当該地域における平均額を勘案し」て『認定基準額』を定めて、事業所における平均賃金がこれを下回らないようにするという内容の条文があった。これは、福祉人材確保指針が賃金等に関して講ずべき措置の一番目に、「職務内容、公務員の給与水準及び地域の賃金状況を勘案するなど、人材確保が図られるような適切な給与水準の確保に努めること」を掲げていることを受けた、賃金水準についての公的基準ともいえる発想であり、評価できる考え方であった。今回の法案では、こうした考え方が盛り込まれなかったことは非常に残念である。

(4)今回の法案は、特別措置法としながらも附則では、「この法律は、介護保険制度並びに障害者及び障害児に対する支援に係る制度について見直しが行われ、介護・障害福祉従事者に関し、優れた人材の確保に支障がなくなったときは、廃止するものとする」として、人材不足解消まで継続する措置であることが明記されている。

 その意味では、制度の見直しがどのような設計に基づいておこなわれるか、人材確保に支障がないとの判断がどのような基準のもとでおこなわれるかが今後注目される。介護・障害福祉従事者の処遇水準を把握する統計調査と分析、現場実態の把握などが適切におこなわれたうえで、国民的な議論がされる必要がある。

 そもそも、福祉労働は専門性の高い労働であり、賃金引き上げ等による十分な処遇の保障と合わせて、人材育成や就労後の研修保障なども国の責任でおこなわれるべきである。また、産休・病休等の代替職員制度をはじめとする雇用の安定化施策の充実、さらには、福祉人材確保指針が「福祉・介護制度関連法規等の法令を遵守した適切な運営が確保されるよう、経営者に対する指導監督を行う」ことを地方公共団体や国の役割としていることもふまえて、福祉職場での法令遵守の徹底も図られなくてはならない。

 こうした総合的な施策こそが、福祉人材確保指針が求めている対策であり、恒久的な人材確保施策がすすめられるためには、指針にとどめることなく『福祉人材確保法』として制定することが求められている。今回の法案を、恒久的な人材確保施策に向けた経過的な措置と捉えて、これを契機に国民の福祉を守る福祉人材確保のより本格的な議論が進むことを希望するものである。

(5)福祉保育労は、「福祉は権利」を掲げて憲法25条に基づく公的責任による福祉を求める立場から、法案提案政党をはじめ、多くの福祉関係者や地域住民、福祉労働者との合意形成や共同運動をすすめ、今国会での法案成立のために奮闘する決意である。

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【参考資料】介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案 概要

1 目的

 この法律は、介護・障害福祉従事者が重要な役割を担っているにもかかわらず、その賃金が他の業種と比較して低い水準にある現状等に鑑み、介護・障害福祉従事者の賃金の改善のための特別の措置を定めることにより、優れた人材を確保し、もって高齢者等並びに障害者及び障害児に対する支援の水準の向上に資することを目的とする。

2 定義

(1)この法律において「介護・障害福祉事業者等」とは、次に掲げる者をいう。 ① 介護職員処遇改善加算の対象となっている介護保険法の指定事業者等 ② 福祉・介護職員処遇改善加算の対象となっている障害者総合支援法の指定事業者等 ③ 福祉・介護職員処遇改善加算の対象となっている児童福祉法の指定事業者等 ④ ①から③までのほか、これらの者に類する者として政令で定めるもの

(2)この法律において「介護・障害福祉従事者」とは、介護・障害福祉事業者等の従業者であって専ら当該介護・障害福祉事業者等が行う介護サービス、障害福祉サービス等のうち政令で定めるものに従事するものとして政令で定めるものをいう。

3 介護・障害福祉従事者処遇改善助成金

(1)都道府県知事は、介護・障害福祉従事者の賃金を改善するための措置を講ずる介護・障害福祉事業者等に対し、当該措置に要する費用に充てるための助成金(以下「介護・障害福祉従事者処遇改善助成金」という。)を支給する。

(2)介護・障害福祉従事者処遇改善助成金の支給の要件、額、申請の方法その他介護・障害福祉従事者処遇改善助成金の支給に関し必要な事項は、政令で定める。

(3)(2)の額は、介護・障害福祉従事者の役割、業務の身体的及び精神的負担を踏まえるとともに、業務の種類、介護・障害福祉従事者の職責等に応じた処遇の体系、他の業種の平均的な賃金水準等を勘案して定められるものとする。

(4)国は、介護・障害福祉従事者処遇改善助成金の支給に要する費用の全額に相当する金額を都道府県に交付する。

4 施行期日等

(1)この法律は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

(2)この法律は、介護保険制度並びに障害者及び障害児に対する支援に係る制度について見直しが行われ、介護・障害福祉従事者に関し、優れた人材の確保に支障がなくなったときは、廃止するものとする。

※ 平均して1月当たり1人1万円賃金を上昇させることを想定 ※ 対象者概数 約122.2 万人(介護 96.4 万人、 障害福祉25.8 万人) 予算規模 約1,466 億円(介護1,156 億円、障害福祉310 億円) =対象人数×月額1万円× 12か月

〔PDFファイル〕

◇介護・障害福祉従事者の人材確保に関する特別措置法案の早期成立と全ての福祉労働者を対象とした恒久的な人材確保施策を求める【談話】
(2014/4/15全国福祉保育労働組合)
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